先日、海沿いの港をぶらぶら歩いていたときのことだ。昼時になり、お腹も空いてきたので、漁港の近くにある昔ながらの食堂に入った。
店内の壁には手書きのメニューがずらりと並んでいる。刺身定食、海鮮丼、焼き魚定食……どれも港らしいラインナップだ。その中で、ひとつだけ妙に気になる名前があった。
「マグロフライ定食」
マグロといえば刺身か寿司。せいぜい漬け丼くらいしか思い浮かばない。フライにする発想がなかったので、興味本位で注文してみた。
しばらくして運ばれてきた皿を見て、まず驚いた。
大きい。
想像していたのはアジフライ程度のサイズだったのだが、出てきたのはほとんどトンカツ級の迫力。黄金色の衣をまとったマグロが堂々と横たわっている。
ひと口かじる。
サクッ。
そして中はふんわり。
これがまた驚くほどおいしい。魚特有の臭みはなく、マグロの旨味だけがしっかり残っている。食感は鶏肉と魚の中間のようで、あっさりしているのに食べ応えがある。
ソースをかけてもおいしいし、添えられたタルタルソースとの相性も抜群だった。
夢中で食べていると、店のおばちゃんが笑いながら言った。
「みんな最初は驚くんだよ。でも一度食べるとまた頼むんだ」
たしかにその通りだった。
港の食堂といえば新鮮な刺身ばかりに目が行きがちだ。しかし、その日いちばん印象に残ったのは刺身でも海鮮丼でもなく、まさかのマグロフライだった。
旅先では有名な名物を追いかけるのも楽しい。でも、本当に心に残るのは、こういう予想外の一皿なのかもしれない。
今でも港町を訪れるたび、メニューに「マグロフライ」の文字がないか、つい探してしまう。
