BCL(Broadcast Listening、海外放送受信)は、1970年代から1980年代にかけて日本で大きなブームとなった趣味でした。今のようにインターネットで世界中の情報が瞬時に手に入る時代ではなく、遠く離れた国の声を直接受信すること自体が大きなロマンだったのです。
夕方から夜になると、愛用の短波ラジオのダイヤルをゆっくり回しながら、ザーッという雑音の向こうに聞こえてくる外国語の放送を探したものです。英語はもちろん、中国語やロシア語、スペイン語など、意味はよく分からなくても「今、自分は地球の反対側から届いた電波を聞いている」という感覚に胸が高鳴りました。受信状態の良い日には、普段は聞こえない遠い国の放送が突然鮮明に入ることもあり、その瞬間の喜びは格別でした。
BCLの楽しみの一つが、受信報告書を海外の放送局へ送ることでした。いつ、どの周波数で、どのような内容を受信したのかを丁寧に記録し、手紙にまとめて航空便で送ります。今のようにメールではなく、封筒に切手を貼り、何週間も返事を待つ時代です。その待ち時間さえも楽しみの一部でした。
そして、ある日郵便受けに海外からの封筒が届いているのを見つけた時の感動は忘れられません。中には受信確認証であるQSLカードが入っていました。美しい風景写真や放送局の建物、国の象徴的なデザインが印刷されたカードは、単なる確認書ではなく、遠い国とのつながりを実感させてくれる宝物でした。壁に飾ったりアルバムに整理したりして、集めた枚数を仲間同士で自慢し合ったものです。
当時は高性能な短波ラジオに憧れた人も多かったでしょう。ソニーや松下電器、ナショナル、トリオ、八重洲などの受信機のカタログを眺めながら、「いつかもっと感度の良いラジオが欲しい」と夢を膨らませました。雑誌も数多く発行され、受信テクニックや周波数情報を熱心に読み込んだものです。
今では短波放送そのものが大幅に減少し、海外の放送局もインターネット配信へ移行しました。スマートフォン一台で世界中の放送が聞ける便利な時代になりましたが、ダイヤルを回しながら雑音の海の中から目的の局を探し当てる楽しさや、何千キロも離れた送信所から飛んできた電波を自分のアンテナで捕まえる感動は、なかなか味わえなくなりました。
BCLは単なるラジオ趣味ではなく、世界への窓でした。知らない国の文化や音楽、ニュースに触れ、遠い国を身近に感じさせてくれる貴重な体験だったのです。今でも古いQSLカードを見返すと、深夜の机の上で受信ログを書いていた時間や、郵便受けを何度も確認して返事を待った日々が鮮やかによみがえります。あの時代のラジオ少年たちにとって、短波ラジオのダイヤルの向こうには、確かに世界そのものが広がっていたのでした。
